上海ロックダウン47日目

4月1日、中国上海市のロックダウンが始まった。

当初は4月5日までの短期的なものと言われていたが、蓋を開ければすでに47日を迎えた。
浦東地区は浦西地区よりも5日早く始まったため、50日を超えているところもあるだろう。
中には3月中旬から封鎖が始まった地区もあるようだから、そこは軽く2か月を超えている。

上海ロックダウンの概要は「不要不急の外出を禁じること」。
さすがにデリバリーは普通に使えるだろうと思ったが、封鎖当初はどこのアプリでも買い物が出来なかった。
それもそのはず、一般人は外に出ることも出来ないのだからお店も開くことが出来ない。
まぁ5日間だけならと思っていたので、その時は特に気にも留めていなかった。
それに、政府からの物資が届くと言われていたからだ。
モーメントやニュースではこんなに多くの物資が届いたと目にすることが出来た。
封鎖が始まって数日経つと期待はずれな物資が届く。
いくばかりかの野菜のみ。
さすがに少ない。
封鎖前に買いだめをしておいたからまだよかったものの、節約して食べたとしても2日か3日か…

そしてロックダウンの延長の通知が届く、これが地獄の始まりだった。

ロックダウンの延長を受け、すぐ解除されるだろうという淡い期待が消えた清明節が過ぎると、同団地内で団体購買を行っていることを知った。
団体購買とは、決められた食材を団地ごとに一括で大量購入し、その食材を団地内で分けるというもの。
普通に買い物が出来ないので、非常にありがたかった。
団地購買では野菜だけでなく、パンや肉、牛乳、米など様々な食材を購入することが出来た。
どんな形であれ食材を買えるというのは一番の安心感が手に入る。
もちろん、中には割高の物もあるが背に腹は代えられない。
買えれるだけの食材を買い、出来るだけ溜めておくようにした。
この時はまだ、封鎖も何とか乗り切れるだろうと思っていた。
何日かに一度行う抗原検査と核酸検査も特に苦に思わず、逆に外に出れるいい機会だと感じていた。
そう、団地から陽性者が出なければすぐにでも解除されると思っていたのだ。

そんな中、いろいろな情報がネットから手に入るようになる。
政府が公式で発信したりテレビで流れるような内容と真逆な情報が。

多くが現状を糾弾するようなものばかりだった。
物資ももらえず、ろくに買い物が出来ない団地があること。
上海の現状に耐えられず自殺者が出たこと。
政府からの物資を横流しして販売したこと などなど…。
これらのニュースはごく一部であり、現在中国のあらゆるサイトからは閲覧が不可能になっている。

実際これが本当かどうかはわからないが、火のない所に煙は立たない。
どの情報を信じるかはその人次第ではあるが、嘘ではないとは言い切れない怖さがここにはある。

隔離から14日が経った日のことだ。
これまで陽性者が出なかったこともあり、団地内では正直もう解放されるんではないか?という雰囲気になっていた。
その日の夜に信じがたい知らせを見ることになる。

「当団地内で陽性者が出ました」

すぐに信じることは出来なかった。
それは団地内の人々も同様で、団体購買で作成したグループ内では混乱の声が多く出た。
これまで一度も出たことが無いのに、どうして14日目になって?
感染経路はどこから?
多くの疑問が頭をよぎった。
もちろん、陽性者を攻撃するようなことがあってはならない。
しかし、みんなの毛色が急に変わったのはこのタイミングからだった。

この日を境に、団体購買の控えることになり、核酸検査をしに行くのを拒否する人が多く出た。
感染経路がわからない今、感染する可能性であるこの2つを避けたいという気持ちの表れだろう。
確かに多くのニュースでは配達員が検査報告を偽り陰性証明を出していたことや、陽性者が出た団地と一緒くたに核酸検査を行っていたことから、そのような不安が起きるのも無理はない。
しかし同時に、この日から自分たちで食材を揃えないといけないという課題が生まれた。
政府からの物資は期待できない、以前の配給から2回目の物資が届いていないのだ。

ゴミ捨てに関しても厳格化され、家の玄関の外に決められた時間にゴミを出すことを決められた。
不動産管理者が1部屋ごとにゴミを回収しに来ることになり、管理者への負担は増えるばかりだった。
彼らはこの団地に住んでいるわけではなく、事務所に寝泊まりをしている。
ただでさえ家に帰れず大変な思いをしているのにも関わらず、我々が安全に過ごすためにできる限りのサポートをしてくれる。
彼らには頭が上がらない。

各アプリで6時や8時半から食材の販売を開始し始めたのもこの時期だ。
しかし多くが失敗に終わる。
普通に食品を購入が出来ないことがここまでストレスになるとは思ってもいなかった。
まだたくわえがあるとはいえ、いつ食材が手に入らなくなるかがわからないという不安。
もし陽性になってしまった場合は、隔離施設に送られてしまうという不安。
外に出れないというストレス。
また14日間隔離が延びたという希望の見えないことへのストレス。
まさかこの現代にこのような不安とストレスを抱えることになるだろうとは思わなかった。

4月の中旬をすぎると、上海の中でも(近場限定だが)外出が出来る団地がちらほら出てきた。
その中で団体購買が出来る知り合いがいたのが不幸中の幸いだった。
そこで購入したものを分けてもらえることになったのだ。
幸い当日配達サービスを利用することが出来たので、そこで購入したものを送ってもらうということで、食材問題はなんとか乗り越えることができた。
海外で大事なのは現地の人とのつながりだということが、今回で十分身に染みた。
こういった状況で助けてもらえるのは非常にありがたい。
聞いたところ、ケンタッキーの団体購買もしているとのことだったのでタイミングが合えばぜひとお願いした。
この隔離期間中にケンタッキーを食べれるなんて思ってもみなかった。
ケンタッキーの団体購買サービスは非常に需要が高く、購入できたことを他の人が知ると多くが情報を求めた。
普段は油物を気にすることがあっても、このご時世に頂けるのは大変至福である。

4月末になるとまた団地内で陽性者が出た。
しかも外国籍の方が陽性になってしまった。
そこで同じ外国籍として決して気持ちが良いとは言えないことを目にする。

彼らは中国語が堪能というわけではなく、普段も英語で発信しグループ内の中国人が翻訳することでコミュニケーションを取っていた。
英語が読めない中国人の方も、Wechat内の翻訳機能で内容を見ることが出来た。
また陽性者が出たことで同じくグループ内では多くの人が様々な発言をしたのだが、そこで今回の陽性者が外国籍の方であるということ、陽性者にも関わらずゴミをいつもと同じように玄関の外に出したことがリークされた。
そこから外国籍の方への攻撃がはじまったのだ。
攻撃の内容は「陽性者にもかかわらずゴミを外に出したこと」。
彼らが何か間違いをしたのだろうか?
もともとゴミを指定の時間に出すことは決められていたことで、陽性者の場合の取り決めはなかった。
仮に事前に陽性者のみに対して通告があったのであれば、それは確かに問題になるかもしれない。
しかし、なぜそれをグループ内で糾弾する必要があるのだろうか。
彼らも言語の壁がある中生活している。
もし彼らに誤りがあったのであれば個人チャットで伝えるべきだろう。
もちろん中には彼らを擁護する方もいたが、非常に残念な気持ちでならない。
このロックダウンという状況がこのような負の感情を生んでしまったのだろうか。
ストレスと不安は誰かにぶつけることでようやく発散されていくようにも思えた。

まったく変化のないゴールデンウィーク(中国だと労働節)がやってきた。
もうこの辺りから解除される希望を捨てたような気もする。
日本に帰りたいという気持ちが強くなってきたのもこのあたりだ。
日本のニュースを見るたびに「いいなぁ」という気持ちが漏れてしまう。
そんな気持ちをもって迎えたゴールデンウィークは実に虚無だった。
中国も日本も休みに入ったことで仕事もストップし、ひたすらゲームや漫画、動画をあさる日々。
ここで自分の趣味の無さを痛感する。
何か創作できるでもなく、練習するもなく、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。
嫌でも自分を見返してしまった。
自分の無さを感じてしまったのだ。
自分への言い訳を積み重ねるだけの時間がそこにはあった。

労働節が終わると静黙期がはじまった。
静黙期とは期間中、核酸検査以外の不要不急の外出、団体購買や個人の購買を禁ずるというものだ。
政府が言うには物資は送るとのことだったが、実際に届いたのは静黙期がはじまって5日後のこと。
やはり食料はもらえるだけ嬉しいものだ。
静黙期が終わりに差し掛かるころ、外から怒声が聞こえた。
耳を澄まし聞いてみると、隣の番地の工事現場からだった。
彼らはロックダウンが始まってからずっと工事現場から出ることが出来ず過ごしていたという。
そのため食料もろくにもらえず、衣食住もままならない環境下でずっと生活してきたことになる。
忘れかけていたが、これが現在の上海の現状である。
ゼロコロナという名目で国民に苦を与えることを厭わない政策は、かつてないほど国民を疲弊させていた。
国の方針を全うするためであれば、国民がどれだけ苦しもうとも関係がないのか。
人権というものはいざとなれば紙切れのように軽いものだと知らされたのだ。

静黙期が終わり1日目、いまだに終わりが見えない生活を過ごしている。
また購入可能な日を迎えることが出来たことで少し安心しているが、本当に安心して外を歩けるのはいつになるのだろうか。
未だに政府から明確なロックダウン解除の日にちの公示は出ていない。
そもそもそれが出たところで、本当かどうかは当日になってみないとわからないのが現状だ。
このままロックダウンが続くとして、飲食店、個人店舗、零細企業への手当は出るのだろうか。
このような現状下で収入が0になったという人々も少なくないだろう。
この国が社会弱者に対して手を差し伸べるようなことはあるのだろうか。
疑問を投げかけたところで返ってくることはないが、吐き出さずにはいられない。

世界中がウィズコロナを行っている中、中国だけがゼロコロナを目指している。
今後ずっとゼロコロナを続けるかどうかはわからないが、私個人としては1日でも早く外を歩くことが出来、外でご飯を食べることが出来、気にせず友人と会えるような日が返ってくることを切に願っている。

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